久しぶりに小説を読みました。
1冊目が面白かったので、同じ作家さんの本を2冊続けて読んでしまいました。
読んだのは、メディカル系の小説。
南杏子さんの「サイレント・ブレス」と「ディア・ペイシェント」
どちらも主人公は30台中ばの女性医師。
自分の仕事に少し自信のない、でも患者と真摯に向き合う姿が魅力的なお医者さん。
1冊目のサイレント・ブレスをレビューします。
サイレント・ブレスとは、人が死ぬ直前に吐く最後の息のこと。
この本の主人公 倫子は、ひょんなことで大学病院勤務から、訪問クリニックの勤務医になります。
その名の通り、在宅での治療を望む患者を訪問して、必要な治療を施すのが仕事です。
初めは左遷されたと思い敗北感を隠しきれない倫子ですが、次第にこの訪問医療に意義を見出すストーリー。
大学での診療というのは、いかに患者を生かす治療を行うかが重要で、見込みがなくとも胃瘻をして生かす。
そんな治療が多くなされているようです。
訪問医療も患者によってはそうなることもありますが、病院を離れ自宅に戻り、最後の時を静かに自分の場所で過ごし人生を閉じようとする患者もいます。彼女はそんな患者に寄り添い、彼らが望むような最期を迎えられるように、手助けをする医者なのです。
「うまく死なせてくれる医者」と言うとそれは本当にいい医者なのか?と思ってしまいます。
けれども、人はそう簡単に思い通りに死ぬことはできません。
刻々と迫る死という初めての経験を前に、最後まで自分に寄り添ってくれる医師がいるということが、患者にとっては一番の安堵なのではないでしょうか。
大学での延命治療が無意味とは言い切れない。しかし本当に自分も周りもそれを望んでいるのかと考えることも、無意味ではない。
生きることが一番重要だ!うん、それはそうかもしれない。
しかし自分の家で家族に見守られながら訪れる死を迎えること、最低限の医療行為を受け自然に死んでいくこともまたあり得る「生き方」なんだ…。
倫子が担当する患者は様々な死を迎えます。
あっけなく死んでしまう人、思ったような最期を迎えられた人。
それでも正しい死に方などない…同時に間違った死に方もない。あるのは死ぬ前のその人の生き方だけ。そう思わせてくれるので、悲しい結末も清々しく乗り越えられます。
倫子が行う治療の様子はとてもリアルで、実際医療とはとても地味で忍耐が必要な仕事だということがわかります。
そして私たち患者側は医者をなにか特別な存在として見てしまいがちですが、彼らも白衣を脱げば私たちと同じ人なのです。
この本の著者、南杏子さんは、本当の医者です。
結婚して海外で暮らし、その後帰国して32歳で医大に入ったという異色の経歴です。
彼女の経験が物語に色濃く反映されているようです。
私もともと涙もろいのですが、毎度のごとく涙しました。。
自分はどんな死を望むのか。家族にはどんな死を望むのか。
そんなことを考えながら読み進めてほしい作品です。
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